
労働者劇団つぶれそう一座自主公演2009
パンガプスムニダ
会えてうれしいです
原作・脚本・野﨑佳史
参考資料 「シリ―ズいま伝えたい①
朝鮮侵略日本は朝鮮になにをしたの」(映画「侵略」上映委員会・著 明石書店)
「伊藤博文と韓国併合」(海野福寿・著 青木書店)
「朝鮮を知るために」(梶村秀樹・著明石書店)
「竜宮の青い玉」(金 素雲 岩波少年文庫)
何度でも竜宮城にいらっしゃ~い!
台本によせて~2009年7月10日(火)野﨑佳史
この作品は2002年8月に名古屋コリアンスク―ルで産声をあげ、現在までに4回再演してきました。新しいモノを意欲的に創っていくのもおもしろいのですが、歌と同じように何度も何度も再演し、作品を温めていきたいと僕たちは考えてきました。
初演のときには気づかなかったことが発見できたり、メンバ―を変えて上演することによって、新しい作品が出来上がる喜びを僕たちは何度も経験してきました。そのようなことができる土台は、僕たちの創り方が新しい出会いや取材を重ねているからだと思うのです。
そして芝居が生まれた感動から新しい道へ進もうとしたとき、その作品とのお別れがやってきます。「パンガプスムニダ~会えてうれしいです」もいよいよ今年で最後の上演となりました。在日コリアンのみなさんとの衝撃的な出会いや、愛知朝鮮中高級学校で舞踊部のみなさんと共演した文化祭公演、そして森の中に舞台を組み、大雨に見舞われながら行った決死の野外公演など、数々のエピソ―ドを残した思い出いっぱいの作品です。竜宮城に招待する2人を毎回変え、迎える側を同じメンバ―にするという少し変わった作り方をしてきました。
芝居が終わっても、僕たちが描いてきた作品の根底にあるテ―マは変わりません。変わらないどころか日本が急激に右傾化する時代に必要なテ―マが、うんと含まれています。みなさんと海の底を散歩しながら、僕たちが生まれるず~と前から、未来までの歴史を一緒に考えてみたいと思います。
登場人物)
京子 ・大学生
奈美 ・その友人
竜王 ・竜宮城の王様
王子 ・竜宮城の皇子
使者 ・竜宮城の使い
ばば ・竜宮城の使用人
徳守 ・村人
加藤 ・倭国の軍人
小西 ・その部下
竜宮の村人たち
竜宮の踊り子たち
竜宮の護衛官たち
初老
仮面の男
(場)
序 章 「むかし~むかし~うらしまは~」
第1場 「竜宮城へいらっしゃ~い」
第2場 「竜宮よいとこ一度はおいで~」
第3場 「竜宮の青い玉」
第4場 「故郷の春」
第5場 「竜宮城があぶな~い」
第6場 「さよならよい旅を」
終 章 「パンガプスムニダ」
序 幕「むかし~むかし~うらしまは~」
遠くで汽車の動輪が聞こえる
多くの群衆に迎えられて
駅からシルクハットの初老が降りる
すると―
群衆の中から若い男が飛び出し
初老に鋭い銃口を向ける
近づく汽車の動輪
後ずさりする初老に向けて汽笛と銃声
初老は倒れ、若者は逃走
―
時を刻む針
仮面の男が登場
仮面の男 「坊やよい子だ寝んねしな
今もむかしも変わりなく
母の恵みの子守唄
遠いむかしの物語―
ここは○○じゃな?わしは朝鮮という国からみなさんとお友達になるためにやってきたんじゃよ。わしらの国『朝鮮』と、みなさんが住んでいる『日本』はお隣どおしの国だから、よ~く似た言葉がたくさんあるんだ。そう、むかし話もね。今からみなさんに見てもらうお話は深~い海の底『竜宮城』の物語。でも、そこはちょっと違った世界、さぁ歴史の針を100年ほど元に戻して海の中を散歩してみましょう」
時を刻む針
仮面の男 「遠いむかしの物語
―
遠いむかしの物語」
仮面の男、去る
うらしま太郎が流れて
―
整理されていない京子の部屋
京子がバックからゴソゴソと服や本を取り出す
京子 「あ~、やっぱりない。どこに消えちゃったの
かな~」
奈美 「京子いる?」
奈美の声
奈美 「入るよ。(奈美が出てくる)うわぁ何よこれ、泥棒でも入ったの?」
京子 「ああ奈美、いらっしゃい」
奈美 「いらっしゃいじゃないよ、あんたまだ片付け
てんの?もう旅行から3日もたってんよ」
京子 「それよりさ、写真できたの」
奈美 「できたことはできたんだけど―」
京子 「何よ」
袋を渡す
ネガを出す
京子 「あれ、写真は?」
奈美 「それがさぁ、どうも失敗しちゃったみたいで」
京子 「マジで~?あんなにフイルム使ってたのに」
奈美 「ネガ見てよ」
ネガを見る
京子 「あらら、まっ白!1眼レフなんてなれないも
の使うからよ」
奈美 「それがさぁ」
京子 「なに」
奈美 「こっちも見てよ」
袋を渡す
京子 「あれ?こっちはちゃんと写ってるじゃん」
奈美 「竜宮城の写真だけ写ってないのよ」
京子 「ふしぎねぇ」
奈美 「やっぱり夢だったのかな」
京子 「ううん、たしかに行ったわよ。ほら奈美、魚
とダンスしたじゃない」
音楽が流れ
魚のダンスを踊る2人
奈美 「楽しかったなぁ」
京子 「料理もおいしかったね」
奈美 「わたしね、竜宮ビビンバ、おいしかった~」
京子 「わたしは竜宮キムチ!
ちょっと辛かったけど」
2人 「フフフ・・・」
音楽が消える
奈美 「お土産もたくさんもらったね。竜宮人参、竜
宮まんじゅうに青い玉。あ、青い玉どうした?
何でも願いのかなうふしぎな玉」
京子 「そうだ、それを探してたんだったわ」
奈美 「それで?」
京子 「それがいくら探しても見つからないのよ」
奈美 「え~、せっかく就職できるようにお願いする
つもりだったのに
京子 「やっぱり夢だったのかな」
奈美 「ねぇ。青い玉もらうとき、何か言われなかっ
たっけ?」
京子 「え~と、力がどうのこうので―」
奈美 「もう1度、今回の旅行のこと1から思い出し
てみようよ」
京子 「―うん」
音楽
京子 「みなさんは竜宮城って本当にあると思いま
すか?わたしたち2人の大学最後の旅『韓国』、それはふしぎなふしぎな旅でした」
第1場「竜宮城へいらっしゃ~い」
京子 「わたしたちは3泊4日のソウルツア―で名古
屋空港を出発、し、市内を観光しておいしい焼肉を食べた後、夜のソウルへと出かけました。
目的地はソウルの街を一望できるソウルタワ―。ふしぎな旅はある青年との出会いから始まりました」
ソウルタワ―の展望台
京子 「うわぁ、きれいねぇ。さっき入った焼肉屋さん
は、あの辺りかな」
奈美 「もっと東の方よ」
京子 「ね、写真とろうよ」
奈美 「うん」
パシャ
奈美 「さて、これからどうするか。まだホテルに帰
るのも早いし―」
絵描きの青年
京子 「奈美、2人で描いてもらおか」
奈美 「わたしはいいよ、1人で行って」
京子 「せっかく韓国まで来たんだし記念に、ね!」
奈美 「ちょっと」
強引に手を引っ張る
絵描きの青年の前まで行き
京子 「よろしくお願いします」
青年、座れと手で合図
京子 「ほら奈美、座って」
しぶしぶ座る奈美
おもむろに筆を取り出し描き出す青年
奈美 「わたし、やっぱやめとくわ」
京子 「ほら、今度は奈美の番よ」
奈美 「―」
しばらくして描き上げる青年
京子 「え?もう出来たの?(絵を見て)ははは・・
似てる似てる。うまいものねぇ」
奈美 「わたしは全然似てない」
京子 「そうかな?よく特徴をとらえてると思うけど」
奈美 「こんなに太ってないもん」
絵描きの青年に
京子 「わたしたち名古屋の美術大の学生です。お兄
さんの絵、とても上手ですね」
青年、何のことかさっぱり分からない
京子 「あれ、通じてないや。いくらですか?」
青年、手をふる
京子 「え~、ただ?困ったなぁあ。―そうだ」
ネックレスを外す
京子 「マイネックレス。これ、お兄さんに差し上げ
ます」
青年、受け取り、礼
京子 「それじゃ、カムサハムニダ」
青年、去る
京子 「あの人、学生さんかな?」
奈美 「さぁ。でも向こうがタダって言ってんのにネ
ックレスなんかあげることなかったに」
京子 「そういうわけにはいかないよ」
奈美 「お人好し。さ、ホテルに帰るよ」
京子 「うん。また会えるといいな、あの人と」
京子
京子 「ところが青年とすぐに再会することになりま
した。次の日の朝、南大門の近くを歩いていたとき―」
南大門市場
京子 「あ、韓国ノリだ、買っていこうかな」
奈美 「後にしなよ、荷物になるだけよ」
青年、現われる
京子 「あ、昨日のお兄さんだ!」
奈美 「あら、ほんと」
青年、礼をして手紙を渡す
奈美 「な、なに!」
手紙を読む
京子 「わたくしは竜宮から参りました使いの者です。
昨日、わたくしが絵を描いていたのは、実は竜宮の王子様の嫁探しのためなのです。―何これ?」
奈美 「さぁ」
京子 「(手紙の続き)わたくしが描いた絵を竜宮の王子様が見て、気に入った女性を探しておられるのです。あなた方のことを王子様にお話しましたら大変気に入られまして是非、竜宮に連れて来いと言われています。どうか今すぐ一緒にお供して竜宮城においで下さい」
奈美 「竜宮城!竜宮城っていえば」
2人 「うらしま太郎!」
二人、歌う
♪むかし~むかし~うらしまは~
助けた亀に連れられて~
竜宮城に行ってみれば~
絵にも描けない美しさ~♪
青年、奈美の手をつかむ
奈美 「ちょっと、やめてよ」
京子 「奈美、おもしろそうじゃん。ついていってみ
ようよ」
奈美 「いやよ、何だか怖いわ」
京子 「大丈夫よ。竜宮城っていうシャレたレストラ
ンか何かの名前なのよ。それにふつうの観光してたっておもしろくないでしょ」
奈美 「わたしはそれでいいの。そんなに行きたいな
ら1人で行ってきたら」
京子 「またそんなこと言う。―竜宮の王子様ってど
んな人かみてみたいでしょ?」
奈美 「そりゃ、ちょっとは―」
京子 「決まり!(青年に)わたしたち一緒に行きま
す。い・き・ま・す」
音楽―
青年、礼をし―
2人の前に立つと
大きな布を広げて飛び上がり
―
2人 「うわぁ~。たすけて~」
深海に潜る音
時を刻む針
仮面の男が『時の針』を針をぐるり
ぐるりと反転させ
止まった『時』は―
第2場「竜宮よいとこ一度はおいで~」
竜宮城~宴の間
―
華麗な竜宮舞踊
京子と奈美は舞踊に見とれている
目の前には豪華な竜宮料理が並び
屈強な護衛官が目を光らせて警護にあたっている
舞踊が終わり大きな拍手
奈美 「ねぇ、ここはどこ?」
京子 「竜宮城よ。竜宮ホテルかな?」
ジャ~ンというドラの音
正面の扉が開き竜王と王子が登場
両脇に使者と腰の曲がった使用人のばば
竜王 「竜宮城へようこそ。遠いところをよく来て下
さった。わしの息子があなた方を随分と気に入ったようですが、実にやさしい目をしておられる。わしは3日後に満60歳を迎え、竜宮城で盛大な祝賀会を行います。是非、そちらの方も参加して下さい。さぁ、お口に合うかどうか分かりませんが、竜宮の腕のいい料理人たちが作った食事をお召し上がり下さい」
2人、礼
王子が出る
王子 「わたくしが竜宮の王子のキム・ユホンです。
いろいろとご無礼を言って申し訳ありませんでした。使いの者から聞いておられると思いますが、わたくしは30にして今だ嫁がありません。あなた方に来て頂いたのは、わたくしのお嫁さんになっていただきたいと思ったからです。もちろん無理は承知です。わたくしとうまくいかなければ、そのままお帰りになって下さってかまいません。まずは竜宮の城を存分に楽しんでいって下さい」
竜王 「なにか困ったことがありましたら、この使用
人のばばに申し出て下さい」
ばばの不気味な笑い
王子 「あなた方の名前を教えて下さい」
京子 「わたしは京子です」
奈美 「―」
京子 「こっちは奈美。竜宮城のようなセットに本当
にびっくりしました。ホテルの従業員さんたちも、み~んな親切で」
一同シ~ンとなる
王子 「ひどくお疲れのようですね。今よいは食事を
ほどほどにして、お休みになられるといいですよ」
京子 「―はぁ」
王子 「さぁ踊り子たちよ。娘さんたちに充分なもて
なしを!」
再び竜宮舞踊
サッと去ると―
竜宮城~寝室
ばばに案内されて入ってくる京子と奈美
ばば 「こちらが竜宮城最上級の寝室でございます」
京子 「うわぁ、すごく綺麗な部屋」
カ―テンを開けると魚の群れ
京子 「あ、魚だ!タイにヒラメ。あ、アンコウだ」
ばば 「そりゃ、深海10万メートルですから」
京子 「ここはホントに竜宮城?」
ばば 「さっきから何度もそう言ってるじゃないか、
ヒヒヒ。それよりお前さんたち倭国の人間だろ」
京子 「ワコク?」
ばば 「この竜宮はお前さんたちが生まれる前から倭
国と仲良くやってきたのさ。ところが、つい300年も前にヒデナガという武士を竜宮を侵略しようと多勢の軍を引き連れてやってきた。
だから倭国の人間をわしらはあんまり信用しとらんのさ。まぁいろいろと気をつけな。ヒヒヒ」
去る
京子 「ばばさん、なに言ってんの?」
奈美 「さあ。ただ竜宮城に来たことだけは間違いな
さそうね」
京子 「ワコクって何よ」
奈美 「日本のむかしの呼び名よ。タイムスリップで
もしたのかしらね」
大あくびして
奈美 「わたし疲れたから先に寝るわ。おやすみ」
ベットに横になる
京子 「―どういうこと?何がどうなってるの?ちょ
っと、奈美!」
うらしま太郎が流れて―
竜宮城~王室
竜王と使者
竜王 「客人はもう寝たかな」
使者 「は、もうお休みになったと思います」
竜王 「息子めが!よりによって倭国の娘を嫁にした
いなどとは」
使者 「一昨日。伊藤伯爵が何者かによって暗殺され
ました」
竜王 「なに!」
使者 「それと、倭国の軍船が我が城外に現われした。
いかがなさいましょう」
竜王 「様子をみよう。できることならいくさは避け
なければならん」
使者 「かしこまりました」
音楽―
夜の農村
若い男が走る
後ろを振り返りながら
突然、前に竜宮の護衛官が現われる
立ち止まる若い男
後ろから踊り子の女性が現われる
若い男 「竜宮の方がこんな所に来てはいけません」
踊り子 「こちらの道のほうが安全です」
若い男 「―」
踊り子 「追っ手が来ます。早く」
走って去る
第3場「竜宮の青い玉」
竜宮城~城外
花の咲く野原
京子が一人で散歩をしている
京子 「あ、百合だ。きれい。ここは本当に竜宮なの
かしら」
何か見つける
京子 「四葉のクロ―バ―だ。フフフ・・・何かいいこ
とありそう」
歌う
♪おとひめ様のごちそうに~
タイやヒラメの舞踊り~
ただ珍しくおもしろく~
月日がたつのも夢のうち~♪
拍手
京子 「だれ?」
村人 「お嬢さん、歌上手ですね」
京子 「へへ―ありがと」
村人 「何かやってたんですか」
京子 「いや、別に母が学校の先生をやってたからか
な」
村人 「学校って何ですか?」
京子 「分かんないか」
村人 「あの~、もう一度歌ってくれませんか」
京子 「ああ、いいですよ」
村人 「お~い、お~い」
村人がゾロゾロと出てくる
京子 「な、なに」
村人 「おらたちは明後日に行われる竜王様の祝賀会
で村人を代表して歌を歌うことになったんですが、どうもうまく歌えないもんで困っていたところなんです。(村人たちに)歌のうまい人がようやくみつかったべ、この人に歌を教えてもらえばいいさ。な」
村人、拍手
京子 「困ったなぁ」
村人 「さ、もう一度、歌きかせておくれ」
奈美がやってくる
奈美 「あれ、京子―」
遠くで様子を見る
京子 「では、歌います」
拍手
♪うさぎ追いし かの山
こぶな釣りし かの川
夢は今もめぐりて
忘れがたき ふるさと♪
村人の大拍手
村人 「な、おらたちに歌を教えてけろ」
他の村人も頼み込む
村人 「お願いします。わしら貧しいけど心で歌いま
す。一生懸命やります」
京子 「じゃあわたしでよければひきうけます」」
うぉ~という歓声
ばばがやってくる
ばば 「これこれ、竜宮の客人に気やすく声をかけら
れては困ります。ささ、城に戻りましょ」
村人が困っていると、京子こっそり
京子 「また後できます。ここで待ってて下さい」
ばば 「何か言いましたかな?」
京子 「いえ、何でもありませんよ。バイバイ」
去る
奈美 「ふん、何よ、ヒロインにでもなったつもりな
の!あ~あ、竜宮なんてつまんない。やっぱ
来なきゃよかった」
王子 「―キョウコさん」
王子
奈美 「は!わたしは奈美です」
王子 「ごめんなさい。倭国の名前を覚えるのはむず
かしいですね」
奈美 「いいえ!」
王子 「ナミさんどうですか。竜宮は楽しいですか?」
奈美 「ええ、とっても。楽しくて楽しくて仕方あり
ませんわ」
王子 「そうですか、それはよかってです」
奈美 「ふん!」
王子 「ナミさん。よかったら、そこらを一緒に散歩
しませんか?」
奈美 「言っときますけど。わたしはあなたのお嫁さ
んにやるつもりなんて、これっぽっちもないですからね!」
王子 「かまいませんよ。わたくしは、あなたと散歩
がしたいのです。よろしいですか?」
奈美 「―はぁ」
去る
竜宮城の城内
京子とばば
京子 「何か冷たい飲み物はありますか?」
ばば 「ええ、ありますとも。ところでお嬢さん、竜
宮の青い玉って知ってますかな?」
京子 「竜宮の青い玉?」
ばば 「何でも願いのかなうふしぎな玉です」
京子 「へぇ~。それって、例えば冷たい飲み物が欲
しいって言えばパッとでてくるんですか?」
ばば 「そんなたわいなこと目じゃないですよ。いい
ですかな、この竜宮城だって青い玉でもっているようなもんなんですよ。ひとたび青い玉に金や銀が欲しいと言えば、たちまち空から金がザ~っとふってくる」
京子 「ほんとですか?」
ばば 「ばばはウソは言いません」
京子 「へぇ、いいなぁ。じゃあ就職できますように
って言えば簡単に働き口が見つかるわけだ」
ばば 「何のことかさっぱり分からんけど、まぁ何で
も願う不思議な玉であることは間違いないのさ、ヒヒヒ―」
京子 「ばばさん、その玉を見たことあるの?」
ばば 「わしは竜宮城の使用人をはじめ50年、まだ
1度も見たことないのさ。でもな、青い玉がどこにあるかは知っとるよ」
京子 「何で」
ばば 「わしを甘く見るではない、だてに年はとっと
らんよ。ところで、お前さんに相談があるんじゃ。実は、わしの一人娘のことなんじゃが、わしもこうして使用人をしておるが貧しさにかわりはない。娘も貧乏で嫁ぐことができず、年だけとってしもうた。何とか娘を若返らしていい青年と結婚させたいんじゃよ」
京子 「ばばさんの気持ち、よく分かります」
ばば 「そこでじゃ、青い玉を何とかてにしたい、そ
う思っとるんじゃよ」
京子 「ぬ、盗むんですか!」
ばば 「ばか、声がでかい。お借りするだけじゃ、願
いがかなったらちゃんとお返しするさ」
京子 「なるほど・・・」
ばば 「問題はいつ拝借するか。わしは竜王の祝賀会
でと思っとるんじゃ。村人が歌を歌い祝賀会も佳境に入った頃、お嬢さんが竜王と一緒に踊りをする。そこで目をそらせて、その隙にわしが青い玉をちょ~だいするのさ」
京子 「青い玉はどこにあるんですか」
ばば、こっそりと
ばば 「竜王のイスの中。ほら、いつも竜王が座って
いる大きなイスがあるだろ、あん中さ。(青い玉を出して)こいつとすりかえるのさ」
京子 「へぇ~」
ばば 「いいかい、このことは誰にも言ってはならん
ゾ。とくに、お前の友人のひねくれ娘、あれはダメじゃ」
京子 「でも」
ばば、泣きながら
ばば 「わしの娘を助けると思って、お願いします、
お願いします」
京子 「わかりました、誰にも言いません」
ばば 「ありがとう。ありがとう。じゃ、冷たい飲み物をお持ちします」
京子 「すいません」
ばば、少し離れて
ばば 「ヒヒヒ―」
音楽
湖のほとり
王子 「ナミさんの故郷はどんな所ですか?」
奈美 「どんな所って。わたしは生まれも育ちも名古
屋だから、こんな静かな所に来ると何だか落ちつくわね。ねぇ、王子さんも竜宮城で生まれたの?」
王子 「はい。わたくしは竜宮城がとても好きです。
でも時々、何もかもが嫌になって、下界へ飛び出したくなります」
奈美 「じゃぁ行けばいいじゃない」
王子 「そう言うわけにはいきません。わたくしは竜
宮の王子ですから」
奈美 「あなたもいろいろと大変なのね」
王子、ネックレスを取り出す
王子 「使いの者から頂きました。ありがとうござい
ます」
奈美 「あ、それは―」
王子 「あなたは心のやさしい方だ」
奈美 「いや、だから」
王子 「これは、どうやって使うものですか?」
奈美、王子にネックレスをかける
手鏡を出し
奈美 「よく似合ってるわ」
王子 「そうですか?」
奈美 「でもね、それは私があげたのもではないの。
京子があげたものよ。わたしは京子みたいに素直じゃないし、自分のことばかり考えているわがままな奴なんです」
王子 「あなたはとても素直な人ですよ。それにやさ
しい。こうしてわたしに付き合って散歩してくれているではありませんか」
奈美 「そんなこと言われたのはじめてだわ」
王子 「もっと自分に自信をもってください」
奈美 「―はい」
鐘の音
音楽
王子 「わたくしは城に戻らなければいけません。ま
た明日、一緒に散歩していただけませんか?」
奈美 「ええ、よろこんで」
王子 「では」
去る
奈美 「あ、四葉のクロ―バ―だ。フフフ・・・」
夜―
農村の納屋
村人が数名
扉を叩く音
若い男 「―俺だ」
扉を開ける
村人 「うまくいったか」
若い男 「―ああ」
銃を渡す
踊り子が来る
踊り子 「時間がありません」
村人 「―」
若い男 「この方は我々の味方だ」
村人 「これからどうする」
若い男 「いったん村に戻る」
村人 「危険だ。倭国の連中がウロウロしているぞ」
若い男 「村の仲間が困ってるんだ」
村人 「しかし、もし見つかったら―」
若い男 「心配するな、直に戻る」
若い男、戸口に出るとふり返り
若い男 「祖国独立、万歳(マンセイ)」
村人 「万歳」
第4場「故郷の春」
草原
牛車が向こうに見える
京子と村人たち
故郷の春を合唱
京子 「さん、はい」
♪わたしの故郷~ はなの里~
ももの花 あんずの花 ひめつつじ~
赤 白 黄色の花園で~
遊んだ むかしが なつかしい~♪
京子、木の枝で指揮しながら
京子 「ダメダメ、全然ばらばらじゃない。いい、4拍
子なのよ。
♪わたしの故郷~ 花の里~
ももの花 あんずの花 ひめつつじ~♪
分かる?」
村人たち、不思議そうな顔
京子 「じゃあ、もう一度いくよ。さん、はい」
村人、歌う
♪#$#$### $###$
$#$#$$$ #$$$#♪
京子 「はぁ、ばらばら。困ったなぁ」
王子と奈美が遠くで楽しげに散歩している
京子 「あれ、奈美?え?どういうこと?」
村人 「キョウコさん、おらたち本当にうまく歌える
ようになるんかえ?」
京子 「いい、歌はね、心で歌うのよ。歌に込められ
た気持ちを、あなたたちの思いで表現してね。
1人1人が思いを込めて歌えば、きっと伝わるわ」
村人 「よし、分かった。わしはお米を作っても年貢
を強制させれられる。でもわしはお米づくりにほこりをもっとる。そんな思いで歌うだ」
拍手
別の村人
村人 「おらは両親をいくさで亡くしただ。だから、
もういくさはまっぴらさ。おらは竜宮を愛しとる。これからも平和な時代が続くように思いを込めて歌うぞ」
大きな拍手
京子 「よ~し、じゃあもう一度いくよ」
村人 「よ~し」
京子、枝で指揮して
京子 「さん、はい」
♪わたしの故郷~ はなの里~
ももの花 あんずの花 ひめつつじ~
赤 白 黄色の花園で~
遊んだ むかしが なつかしい~♪
遠くから村人の声
徳守 「お~い、お~い」
村人 「あ、徳守だ。お~い」
青年、徳守がやって来る
村人 「徳守、帰ってきたんか」
徳守 「今朝、村に着いたんだ。家に帰ってきたら、
みんなが歌の練習をしてるっていうから、これ持ってきたんだ」
チャンゴ
京子 「これ、何ですか?」
村人 「竜宮の楽器で、チャンゴといいます、これが
あると歌もしまるんだ。それに徳守は村一番の使い手だから」
京子 「そうなんですか」
村人 「徳守。こちらは竜宮城の客人で、おらたちの歌の先生のキョウコさん」
京子 「京子です」
徳守 「徳守です、よろしく」
握手
村人 「さ、徳守も来たことだし、パ~っと明るくいきましょうか」
徳守 「おい、花見じゃないんだぞ」
一同ドッと笑う
村人 「じゃあ京子さんお願いします」
徳守 「よ~し」
京子 「では、いきます。さん、はい」
♪ナ~エサルドン コ~ヒャンウン
コッピ~ヌ~ンサンコ~ル
ポクスンア~コッ サルグ~コ~ッ
ア~ギ~チンダルレ~♪
去る
踊り子が遠くから見ている
音楽
湖のほとり
奈美と王子
王子 「ガッコウ―ですか?」
奈美 「ええ、わたしはそこで勉強してるの」
王子 「クニが国民のために教育をする、すばらしい
ことですね」
奈美 「それがね、何だか窮屈でね」
王子 「何故ですか?」
奈美 「なんか競争ばっかりでね、勉強もおもしろく
ないの」
王子 「そうですか」
奈美 「学校を出ても働き口がないのよ、おかしい
と 思わない?」
王子 「―?」
奈美 「わからないか」
王子 「実は明日の祝賀会で、父は竜王の座をわたく
しに継承なされるつもりなんです。わたくしは
父のように竜王の位をつとめることができる
か分かりません。わたくしはどうも村人たちか
ら、あまりよく思われてないないようです」
奈美 「そんなこと―」
王子 「でも、わたくしは村人たちが平和な暮らしが
できるようにしたいと思っています。ガッコウ
も作りたいですね」
奈美 「是非―」
見つめ合う2人
咳払い
ばばが現る
ばば 「あら王子様、こんな所で何をしていらっしゃ
るのですか?」
王子 「こちらの客人と散歩を」
ばば 「王子様、つかぬことをお聞きしますが、まさ
か、そちらの客人とご結婚なさる気ではありま
せんよね」
王子 「どうしてそんなことを聞くのですか」
ばば 「お忘れではありますまい。倭国に竜宮がどん
なひどい目にあったかを」
王子 「この方には関係ありません」
ばば 「たしかに。しかし竜王様がそれをお許しにな
るかどうか―」
王子 「―」
ばば 「倭国の軍船が近頃ウロウロしているようです
が、万が一、いくさになったとき、あなたはど
うなされますかな」
王子 「―」
ばば 「まあ、そちらの客人も竜王様の祝賀会が終わ
ったらお帰りになられるでしょう。いらぬお世
話かもしれませんがね、ヒヒヒ―」
去ろうとして
ばば 「あ、そうそう。あんたのお連れはどこに行か
れたのかな」
奈美 「知らない」
ばば 「ま、いいや。おいしい話は意外なところに転
がっとるでよ、ヒヒヒ―」
去る
奈美 「クソババア」
王子 「ごめんなさい」
奈美 「あなたが誤ることじゃないわ」
王子 「ナミさん、わたくしたちのクニの言葉を覚え
てみませんか?」
奈美 「言葉?」
王子 「ええ、わたくしが教えます」
奈美 「言葉ってどんなの?」
王子 「例えば―」
音楽
王子、奈美の手をとって
王子 「パンガプスムニダ」
奈美 「―パンガプスムニダ?」
王子 「あなたと会えてうれしいです」
奈美 「わたしもよ」
第5場「竜宮城があぶな~い」
竜宮城~王室
竜王と使者
そして倭国の軍人―加藤
加藤 「おい、いつまで返事を待たせるつもりだ。我
々の保護条約を受け入れるかどうか―。それを聞きたい」
使者、ゆっくりと前に出るが
竜王が静止し
竜王 「倭国の信書には『皇(こう)』や『奉勅(ほうちょく)』と書かれており、我が王朝を見下している侵略的な態度をとられる限り、正式に保護条約を結ぶことはできない」
加藤 「―ほう。ならばこのまま露路亜国に好き勝手
にさせておくおつもりですかな」
竜王 「ここは竜宮だ。竜宮の運命は我々竜宮人が
決める」
使者 「そうだ。倭国は竜宮から出て行きなさい」
加藤 「我々の保護条約を受け入れんと言うことだな。
ならば将来、竜宮がどうなることか―覚悟されたい」
去る
使者 「竜王さま―」
竜王 「うむ、いたし方ないか。平和に竜王の代を息
子に譲れると思っておったがのう。ところで息子の様子はどうじゃ」
使者 「それが―。ナミという倭国の娘と、ずいぶん
仲良くなっておられます」
竜王 「う~ん、困ったのう―」
去る
竜宮城の正門前
徳守
踊り子 「ご無事でなによりです」
踊り子
徳守 「本当に助かりました。でも、これ以上、我々に
関わっては危険です」
踊り子 「いえ、最後までお供しますわ」
徳守 「なぜそんなにわたしに親切にいて下さるので
すか?」
踊り子 「それは―。祖国の独立のためです」
徳守 「―」
踊り子 「わたしは他になにをすればいいかしら?」
徳守 「村の広場で独立宣言を行います。竜宮の村人
たちをできるだけ多く集めて下さい。いいですか、絶対に無理しないで。我々の仲間の指示に従って下さい」
踊り子 「いつ実行するのですか?」
徳守 「明日、竜王さまの祝賀会に合わせて行います」
踊り子 「分かりました」
去る
竜宮城~寝室
夜
京子がベットからむくっと起き上がる
京子 「いよいよ明日だわ。みんな緊張しなきゃいい
けど」
ばばの声
ばば 「いよいよ明日ですな、ヒヒヒ―」
京子 「ばばさん」
ばば 「お前さん、例の青い玉の話、誰にも言ってないだろうね」
京子 「ばばさん。わたし、いろいろ考えたんだけど、盗むのってやっぱりよくないと思うの」
ばば 「今さら何を言うんじゃ」
京子 「よく聞いて。あのね、正直に竜王さんにお話
して、お借りしたらどうかしら。きっと分かっ
てくれると思うわ」
ばば 「お前さんは竜王のことを何にも知らんのじゃ
よ。あ奴はケチもケチ、大ケチの男じゃ、金や
銀をたんまり持っとるくせして、わしらには少
しも分けてくれようとはせん。ほれ、見てみい。
わしのか細い手。もっとごちそうを食べていた
ら、こんなにはならんかったのに。いいかい、
竜王はわしらの暮らしなんて、これっぽっちも考えん男さ。正直に話したところで、青い玉なんぞ貸してくれるわけがない」
京子 「―でも」
ばば 「わしが大金持ちになったら、あんたにも少し
分けてやる」
京子 「娘さんは?娘さんの幸せを、ばばさんは願っ
ているんでしょ」
ばば 「そうじゃった、そうじゃった。娘のことを思
うとふびんで、ふびんで、おうおう―。ええな、この作戦はお前さんにかかっとるでな。さ、さ、今日は早く寝て、体調を整いておくんなまし」
京子をベットに寝かせる
ばば 「ヒヒヒ―。明日で竜宮城とも、おサラバじゃ。
大金持ち、大金持ち、ヒヒヒ―」
去る
竜宮城~城内
踊り子がぼんやりと外を見ている
奈美がやってくる
踊り子 「(ため息)
奈美 「あの~、こんなところで何やってんの?」
踊り子 「(ため息)」
奈美 「―気持ちわる~」
去ろうとすると
踊り子 「ねえ、あなた好きな人いる?」
奈美 「え!何よ急に」
踊り子 「好きな人に気持ちを伝えるってむずかしい
のね」
奈美 「わたしね、そういうグズグズしてる人を見て
るとイライラするの」
踊り子 「―」
奈美 「いい。好きな人がいるなら自分から言わなき
ゃだめよ」
踊り子 「あなたならそうする?」
奈美 「あ、あたりまえよ。相手に気持ちを伝えても
らうまで待つなんて最低だわ。あなたも頑張るのね」
去る
踊り子 「―あなた、も?」
奈美が手に本を持ち、竜宮語を口ずさみながら部屋に入ってくる
奈美 「オレガンマニムニダ、お久しぶりです。カム
サハムニダ、ありがとうございます。サランへヨ、愛して、ます」
京子、起き上がる
奈美 「あら、京子帰ってたの?」
京子 「うん」
奈美の持っている本を見て
京子 「何、それ」
奈美 「え?あ、なんでもない」
京子 「あ~つかれた」
ベットにゴロン
京子 「ねえ、明日の祝賀会が終わったら、日本に帰
ろっか?」
奈美 「え、もう帰っちゃうの?」
京子 「何で?だって奈美、全然おもしろそうじゃな
いじゃん」
奈美 「そんなことないよ。もう全然楽しいよ、う
ん―」
京子 「変わった人」
奈美 「そういえばさ、あんた村の人に歌教えてん
の?」
京子 「そうよ。明日の祝賀会で発表するの」
ベットから起き上がり
京子 「最初はどうなることかと思ったけど、みんな
うまくなったわ」
奈美 「へえ~、じゃあ、あんたも歌うの?」
京子 「そうなの、どうしよう。緊張してきちゃった」
奈美 「何を歌うの?うらしま太郎?」
京子 「まさか。竜宮の民謡で『故郷の春』を歌うの。
故郷を愛する人たちの思いがいっぱいつまった素敵な歌よ」
奈美 「衣装は?そんな、汚ったない服で祝賀会に出
るつもりじゃないでしょうね」
京子 「村の人たちにチマチョゴリをお借りするの。
わたし似合うって言われちゃったもん。奈美こ
そどうするの?」
奈美 「私は竜王さんからもう借りたのよ。京子の分
の借りたけど、いいわね」
京子 「どれぐらいの人が来るのかしら?」
奈美 「さぁ、ザっと数万人は来るかな」
京子 「ウッソ~」
奈美 「冗談よ。親族の人と、村の代表の人と、外国の
方が数人来るみたい」
京子 「やけに詳しいわね」
奈美 「え?」
京子 「何で?」
奈美 「別に」
京子 「ふ~ん」
奈美 「それよりさ。あんた、ばばとすごく仲がいい
みたいだけど、何か企んでるの?」
京子 「え?なんにもないよ」
奈美 「そう?」
京子 「うん」
奈美 「何か、あのばば気持ちが悪いわ。変なことに
巻き込まれないでよ」
京子 「―ね、もし、もしもよ。何でも願いをかなえ
てやるって言ったらどうする?」
奈美 「そうねえ~。結婚、かな」
京子 「結婚?」
奈美 「なによ。女性が結婚を望むのは当たり前でし
ょ?」
京子 「そりゃ、いろいろだけど・・・ま、いいや、
明日は早いから寝ましょ。おやすみ」
2人、ベットに寝る
奈美 「アンニョンヒチュムセヨ(おやすなさい)」
京子 「―え??」
祝砲
音楽
竜宮城の正門前
京子が待っている所へ正装した村人がゾロゾロとやってくる
京子 「ああ、いらっしゃい。お待ちしてました」
村人 「今日はよろしくお願げぇしますだ」
京子 「こちらこそ」
徳守 「キョウコさん、アンニョンハシムニカ?」
京子 「ネ、アンニョンハシムニカ。徳守さん、その
服よく似合っていますわ」
徳守 「カムサハムニダ。キョウコさんは着替えない
のですか?」
京子 「あとで、ばばさんに着付けてもらうの。みな
さん、緊張していませんか?」
村人 「おら、もう胸が張り裂けそうだべ」
村人 「おらも」
京子 「そう。じゃあ、気持ちを落ち着かせるために
深呼吸をしましょう」
村人 「シンコキュウ?」
京子 「うん、いい?息をこう大きく吸って、息を止
めるそしたら、ゆっくり息を吐くのよ。これを
3回ぐらいしたら気持ちが楽になるわ」
村人 「ほんとかえ?」
京子 「行くわよ。大きく息を吸って~」
村人、息を吸う
京子 「はい、息を止めて~」
息を止める
京子 「ゆっくり吐いて~」
息を吐く
京子 「そう、じゃあ、もう1度。大きく息を吸って
~」
徳守が息を苦しそうにする
村人 「おい、どうした?」
京子 「ちょっと、息を吐かなきゃダメよ」
息を吐く
村人、大笑い
村人 「倭国じゃ、不思議なおまじないをやらんだな」
徳守 「でも、おかげで気持ちが楽になったよ」
京子 「あら、徳守さんでも緊張するんだ」
徳守 「そりゃあ。チャンゴを打つのは平気だけど、竜宮城でやるってのは特別なことだから」
京子 「そうなんですか」
村人 「おらたち竜宮城に来たのははじめてなんです
おらたちのような村人は竜宮城に入るなんて、
なかなかできないんですよ」
徳守 「あまりにも住む世界が違いすぎるな」
京子 「ごめんなさい。私、なんか変なこと聞いちゃっ
たかしら」
村人 「いやいや」
村人 「しかしキョウコさんは心臓が強いんだな、祝賀
会を目の前にしても落ちついていらっしゃる。
さすが先生だ」
村人たち頷く
京子 「実は私もさっきから足が震えているんです。エヘへ―」
村人 「そうなんですか!」
京子 「ええ」
村人 「キョウコさんでも緊張するんだな」
村人 「そりゃそうだ。いくら先生でも竜王様の前で
やるとなりゃ、足も震えるのはあたり前さ」
村人 「えらそうに言うな。お前がいちばん震えてた
くせに」
村人、ドッと笑う
村人 「ようし、今日はわしら村人の力を、竜王様に見てもらおうじゃなか」
全員 「おう!」
王子がやってくる
一同、かしこまる
王子 「みなさん、今日は遠い所から父の祝賀会にきて頂き、ありがとうございます。どうか、そう、かしこまらずに今日1日、楽しんでいって下さい」
村人、礼―
京子 「王子さん、私の友達、見ませんでした?今朝
起きたら、もうどこかに出かけたみたいなんですが」
王子 「さぁ、ばばに着付けてもらっているのではな
いですか?」
京子 「そう。ちょっと様子を見てきます」
去る
王子 「(村人たちに)さぁ、みなさんあちらの席でお休みになって下さい」
村人去る
竜王と使者が来る
王子 「父上、この度は生誕60年、おめでとうござ
います」
竜王 「うん。ところでユホンよ、あのナミとかいう
娘と結婚するつもりではないだろうな」
王子 「倭国の人間とはいけませんか?」
竜王 「我々、竜宮と倭国がうまくいかぬ関係だとい
うことは、お主も知っておるじゃろ」
王子 「しかし父上、ナミさんとは関係ありません」
竜王 「いいかユホンよ、よく聞け。倭国は我々竜宮
に不平等な条約を無理やり結ばせようとして
おる。残念だがいくさになるかもしれんのじゃ
よ。そんなときにユホンと倭国の娘が結婚する
ことになったら、竜宮の人々がどう思うか、考
えたことはあるのか?」
王子 「しかし―」
竜王 「今日はお主が竜王になる日だ。竜宮の運命は
ユホン、お主にかかっておるのじゃよ。ええな」
去る
王子 「父上、父上―」
使者 「王子様、これをお読み下さい」
王子 「これは・・・」
使者 「倭国の信書です」
信書を渡す
読む
王子 「こ、これは―」
使者 「竜宮の財政の顧問に倭国人を置くこと、倭国
人が自由に行動できること、竜宮に総監府を置いて倭国が竜宮の政治を取り仕切ること、外国との交渉も倭国が行う、これはまさしく植民地支配ですぞ」
王子 「―う~ん」
使者 「あのナミとかいう娘の中にも倭国の血が流れ
ています。いつ、我々を裏切るか分かりませんぞ。その辺りをよ~くお考えのうえ、ご判断ください」
礼して去る
奈美、やってくる
奈美 「ユホ~ン!どう、私のチマチョゴリ姿、
似合うでしょ?」
王子の目の前で踊る
目を伏せる王子
奈美 「そ・れ・と―ジャ~ン!四葉のクロ―バ―の
かんむりよ。早起きして湖に探しに行ったの」
かんむりを被って
奈美 「どう?」
王子 「―」
王子、去る
奈美 「え、どうしたの?」
京子 「奈美!」
京子
京子 「うわぁ、きれいね」
奈美 「―」
京子 「奈美、どうかした?」
奈美 「いや、別に
それより、あんたまだ着替えてないの」
京子 「これからよ。うわぁ、四葉のクロ―バ―がい
っぱい。これ、私に貸してくれない?」
奈美 「何に使うのよ」
京子 「歌のときに踊るのよ~」
踊る
奈美 「いいわ、あんたにあげる」
去る
京子 「奈美!」
ばばがやってくる
ばば 「ヒヒヒ―お嬢さん、いよいよ作戦決行だよ。い
いかい、失敗は許されないからね」
京子 「ばばさん、私、やっぱり勇気がないわ」
ばば 「今朝、娘から手紙をもらってね。早く若返っ
て勤勉な青年と結婚がしたい、そう言っとったよ」
京子 「困ったな~」
ばば 「心配ばかりするお嬢さんだね。ちょっと練習
するよ。お前さんは、ここに座っとる竜王を踊りに誘い出す、いいね。その隙にわしがイスの中にある青い玉を、こいつと―、あれ?こいつとすりかえる。いいね、落ち着いてやるんだよ」
京子 「―」
ばば 「これ、そんな顔しておったら今から悪いこと
しますよって言っておるようなもんじゃない
か。笑顔、笑顔、スマイル、スマ~イル」
京子、無理やり笑顔をつくる
ばば 「そうそう、その顔だよ。早いとこ着替えてお
いで」
京子、去る
ばば 「倭国の人間はひねくれもんばかりかと聞いて
おったが、あのお嬢さんは実に素直じゃよ。わしも悪いばばじゃのう~ヒヒヒ―」
使者
使者 「これ、ばば。そんな所で何をやっとる。竜王様
の祝賀会を始めますぞ」
ばば 「はいはい」
去る
一瞬の静寂
竜宮城~宴会の間
ジャ~ンというドラの音
ばば 「ただ今より竜宮城大王、竜王様の生誕60
年、祝賀会を始めます」
音楽
竜宮の踊り子に連れられて竜王と王子が登場
両脇に竜宮の村人、外国人招待客、竜王の親族らが並び、その間を悠々と通る竜王と王子
護衛官らの厳重な警備
元気のない王子
村人の席に何故か京子がいない
豪華な竜宮料理がズラリと並んでいる
正面の扉が開き、竜王と王子は着席
竜王 「本日は、このような祝賀会を開いていただき、ありがとうございます。わたくしが先代の竜王から継いで、はや30年―もう数えて60になりました。近年、倭国や露路亜国などの列強が、我々竜宮を脅かしていますが、そうした圧力に負けず、これからも平和な日々が続くように努力していきたいと思っています。今日1日、楽しんでいってください」
一同、拍手
ばば 「それでは、まず、村人たちによります歌をご
覧下さい」
村人 「徳守、キョウコさんは?」
徳守 「そういえば、さっきから見ないなあ」
ばば 「どうしたんじゃ、はよう始めなさい!」
村人 「困ったのう~」
使者 「竜王様がお待ちであるぞ、早く始めなさい」
村人 「どうする」
使者 「おい!」
村人 「これ!」
徳守、チャンゴを叩き出す
一同、見つめる
奈美 「私、京子を探してくる」
村人 「お願いします」
奈美、去る
徳守のチャンゴに続き、村人が加勢
賑やかなサムルノリが繰り広げられる
御満悦の竜王
安心する部下たち
サムルノリが終わると
一同の大きな拍手
竜王 「う~ん、実に素晴らしい演奏じゃ。お主の名
前は?」
徳守 「安 徳守(アン・ドッス)です」
竜王 「お主が徳守か。噂はかねがね聞いておるぞ」
徳守 「ありがとうございます」
竜王 「わたしはお主の父上の演奏を一度だけ聞いた
ことがあるが実に楽しそうにやっておられた。
父上はお元気かな」
徳守 「3年前に亡くなりました」
竜王 「そうじゃったか。いや、また機会があれば竜
宮城に来て頂こうとおもっていたんじゃがの
う、残念じゃ。しかし、こうしてご子息の方が
ここで舞踊をやられるとは―これも何かの縁
ですな」
奈美が帰ってくる
村人 「どうじゃった?」
奈美 「それがどこにもいないのよ」
村人 「困ったのう~」
竜王、立ち上がり
竜王 「みなさんに聞いてもらいたいことがあります。
実は、今日の祝賀会を機に、竜王の座を息子の
ユホンに譲ろうと思います。いつまでも年寄り
が竜王の座に就いておってはいけない。わしも
陰ながら応援させてもらいますが、これからは
息子と共に、みなさんで新しい竜宮を作ってい
ってほしい。ユホン―」
王、立ち上がり
礼―
竜王 「それとこの際、言っておくことがある。ナミさ
ん」
奈美 「―はい」
竜王 「貴女はユホンに大変親切にして下さった。心か
ら礼を言います。じゃが、我々竜宮は倭国とい
くさになるかもしれない貴女とユホンの結婚
を認めるわけにはいかないのです」
奈美 「え、ちょっと、そんなこと父親であるあんたが
決めることじゃないでしょ。ユホンからも何か
言ってよ」
王子 「―」
奈美 「ユホン」
王子、頭を下げる
奈美 「―ユホン」
王子 「ナミさん、ごめんなさい。やはり、わたくしは
貴女と結婚することができません」
奈美 「何で、どうしてよ!」
王子 「わたくしは竜宮の王子です。竜宮の平和をも
守らなければならないのです。それが―竜王一
族に生まれた、わたくしの運命ですから」
奈美 「わたしにはさっぱり分からないわ」
王子 「残念ですがナミさんは我々の事をあまりにも
知らなすぎる。竜宮と倭国の関係はあなたが考
えているよりも複雑なんです」
奈美 「―」
王子 「300年前、倭国は多勢の軍隊を引き連れ
て我々、竜宮を支配しようとしました。クニは
荒らされ、多くの文化人たちが倭国に連行され
たのです。そしてまた、倭国は武力で我々竜宮
を脅かし、不平等な条約を結ばせようとしてい
ます。ナミさんには関係ないかもしれませんが
我々竜宮人にとって倭国の人々を受け入れる
ことは、なかなかできないのです」
奈美 「―」
王子 「ナミさん、わたくしは―わたくしは―」
京子 「キャア~」
一同、一斉に声の方を見る
奈美 「京子!」
チマチョゴリを着た京子は倭国の軍人に手を縛られ身動きのとれない
倭国の軍人・加藤が部下の小西を1人連れ
て、ゆっくりと出てくる
加藤 「我々も祝賀会に参加させてもらおう」
使者 「倭国の連中は招待しておらん、すぐにここか
ら出て行きなさい!」
小西 「なんだと!竜宮人のくせに何をほざくか」
竜王が出てくる
竜王 「お嬢さんを放しなさい!その子はあなた方のク
ニの娘ですゾ」
加藤 「なに!」
加藤、京子を見て
加藤 「そいつを放せ」
小西 「はッ」
京子の紐を解く
奈美 「京子、大丈夫?」
京子 「―うん」
加藤 「倭国の人間がこんな所で何をやっておるの
じゃ!」
奈美 「あんたには関係ないでしょ!」
加藤 「倭国が今どんな立場に立っておるのか分かっ
ておるのか!」
奈美 「そっちこそ、わたしがどんなつらい思いでいる
か分かってるの!」
小西、奈美の頬を殴る
奈美 「何すんのよ」
顔を反らす徳守
小西が覗き込む
小西 「お、お前―」
加藤に耳打ちする
加藤 「ほう、お主、伊藤伯爵を撃った男か?」
徳守 「―」
加藤 「伊藤伯爵を撃った男かと聞いておるのじゃ!」
村人 「―」
徳守 「―」
竜王 「カトウさん、あなた方は我々の国を土足であ
がり、平和に暮らしている人々を脅かしている。
これ以上、我々の主権を無視するのであれば、国際の場に訴えますゾ」
加藤 「やれるものならやってみろ」
村人たち立ち上がる
倭国の軍人と一触即発
加藤 「ところで、我々の信書の正式な返事をもらい
にきた。場合によっては竜宮周辺にいる軍船に
攻撃を命じなければならない」
竜王 「脅されても我々の返事は変わらん。倭国の信
書は正式に拒否する」
加藤 「お主が決めることができるのか。竜王はこち
らの坊やになったんだろうが―」
竜王 「むむ」
加藤 「新しい竜王はお主だ。さあ、我々の条約を飲
むかどうか返事されたい」
王子 「―」
加藤 「どうするかね」
一同、王子を見つめる
王子
音楽
王子 「カトウさん、我々竜宮人と倭国の人たちは、わ
たしたちが生ませるずっと前から互いに行き
来し、交流を深めてきたことはご存じだと思い
ます。倭国による2度のいくさの後も、我々と
あなた方は、国交を回復して平等に暮らしてき
たではありませんか?お隣の同士が戦をする
のではなく、仲良く暮らしていけるようにしま
せんか?わたくしは互いを認め合い、対等に交
流がしたい。これが、わたくし竜王の、あなた
方への返事でございます」
一同、拍手
加藤 「何を馬鹿げたことをぬかすか!我々が保護し
なければ、露路亜国にメチャクチャにされるのは目にみえているではないか!」
王子 「もしそうなっても、わたくしはいくさはしま
せん。人の心は力で変えることはできない。それを教えてくれたのは、このナミさんなんです」
奈美 「―私が・・?」
王子 「わたくしは、あなたからやさしさとは何かを
教えて頂きました。ナミさん、わたくしはナミ
さんを心から愛しています」
奈美 「ユホン―」
加藤 「ええい、こうなったらいくさもやむをえん。
おい、軍船に攻撃を命令しろ!」
小西 「はっ!」
京子、歌い出す
♪わたしの故郷~ 花の里~
ももの花 あんずの花 ひめつつじ~
赤 白 黄色の 花園で~
遊んだむかしが なつかしい~
村人、歌う
♪ナエ~サルドン コ~ヒャンウン
コッピ~ヌンサンコ~ル
ポクスンア~コッ サルグンコ~ッ
ア~ギ~チンダルレ~
ウルグップルグッ コ~ッテグォル
チャ~リンイント~ンネ~
ク~ソ~ゲ~ソ~ノルド~ンテ~ガ
ク~リプスムニ~ダ~♪
京子、歌う
♪花咲きみだれ~ 鳥うたう~
みどりの野原に 南風~
柳の風が そよぐ村~
遊んだむかしが なつかしい~
軍人が入ってくる
軍人 「大変です、村の広場に人が、人が―」
加藤 「―」
一同の合唱―
♪コ~ットンネ セ~トンネ~
ナ~エ~イェッコ~ヒャン
パ~ラントゥル ナムチョ~ゲソ
パ~ラ~ミ~プルミョン
ネ~カ~エ ス~ヤンポ~ドゥル
チュムチュヌント~ンネ~
ク~ソ~ゲ~ソ~ノルド~ンテ~ガ
ク~リプスム二~ダ~♪
加藤 「行くぞ」
去る
小西は慌ててついて行く
♪ク~ソ~ゲ~ソ~ノルド~ンテ~ガ
ク~リプスムニ~ダ~♪
音楽
村人 「軍船が―軍船が引き返していくぞ」
村人 「本当じゃ」
徳守 「万歳(マンセイ)、万歳(マンセイ)―」
一同で
全員 「万歳(マンセイ)、万歳(マンセイ)、万歳
(マンセイ)、万歳(マンセイ)―」
全員で拍手
―
京子、倒れる
奈美 「京子、京子―」
京子 「こ、腰が―」
徳守 「腰が抜けてしまったようですね」
一同、大笑い
竜王 「ナミさん、それからキョウコさん。あなた方のおかげで助かりました、なんとお礼を言っていいやら」
京子 「いえいえ」
王子 「ナミさん、あなたは本当に強い人だ。カムサ
ハムニダ、コマップスムニダ―」
奈美 「チョンマネヨ(どういたしまして)」
見つめ合う2人
一同、拍手
竜王 「さあみなさん、祝賀会の続きを始めましょう。
今宵の主役は、ナミさんとキョウコさんです」
拍手
音楽
音楽に合わせて踊る一同
ばばが京子に目配せして、竜王を踊りに誘
い出す
ばばがこっそりと竜王のイスから青い玉
を出す
だが、ばばが出した玉は、とてつもなく小
さな青い玉
残念がる、ばば―
大笑いの京子
踊り子がやってきて徳守と握手
一同に誘われて京子と奈美は高台に上がる
大きな拍手
―
音楽
第6場「さよならよい旅を」
竜宮城の正門前
竜王と使者、京子と奈美
竜王 「いよいよお別れですね、竜宮城の旅はいかが
でしたか?」
京子 「とっても楽しかったです」
奈美 「私もです、竜王さん」
竜王 「わたしはもう、竜王ではありませんゾ。竜王は息子のユホンです」
京子 「ユホンさんは?」
竜王 「今朝から姿を見てないんだが」
奈美 「―」
使者から受け取って
竜王 「あなた方には大変お世話になりました。つま
らぬものですが、我々竜宮のお土産をお持ちになって下さい」
京子 「玉手箱ならいりませんよ」
竜王 「タマテバコとは何ですか?」
奈美 「京子!」
竜王 「竜宮では高価なものですが、竜宮人参です。
倭国に帰ったら料理で使って下さい。それから
竜宮まんじゅうです」
受け取る
京子 「ありがとうございます」
竜王 「ユホンの奴、ナミさんがお帰りになるというの
に何をやっておるんだ」
王子の声
王子 「ナ~ミさ~ん!」
遠くから走ってくる
奈美 「ユホン」
王子 「間に合ってよかったです」
奈美 「どこに行ってたの、もう来ないかと思ったわ」
王子 「ごめんなさい、これを探していたので―」
四葉のネックレス
奈美 「あ、四葉のネックレス」
王子 「ナミさんがわたくしに作ってくれた四つ葉の
かんむりをひどいことにしてしまったので、そのおわびです」
奈美 「ありがどう」
ばば
ばば 「ヒヒヒ、お嬢さん」
京子 「ばばさん」
ばば 「もう帰っちゃうのかい?」
京子 「ばばさん、いろいろとお世話になりました」
ばば 「そうかい、またおいでなさい。(ナイショで)今度は竜宮のお宝をちょ~だいするからね」
京子 「はは、分かりました」
王子 「それと、2人にもう1つお土産があります」
奈美 「なに?」
竜宮の青い玉を出す
ばば 「ひぃえ~あ・お・い・た・ま」
王子 「これは竜宮の青い玉といいます。竜宮の人々
はこれを何でも願いのかなうふしぎな玉だと思っているようですが、そんな玉があるはずがありません。我々一族は、天候が悪くお米が不作だったとき、この玉にたくさんお米が実るようにお願いしました。それから倭国とのいくさのときは、人々が平和に暮らせるようにお願いしました。でも一番大事なのは自分で考え行動することです。ナミさん、キョウコさん、自分の力を信じることが大切ですよ。そうすれば、青い玉はきっと願いを叶えてくれるでしょう」
奈美 「わかったわ」
王子 「奈美さん、チャンマルソプソパムニダ」
奈美 「ソプソパムニダ?」
王子 「とても名残惜しいです」
奈美 「―本当に・・・」
音楽
竜王 「それではお二人とも、どうかお元気で」
京子 「あなたたちのことはきっと忘れないわ」
王子 「またお会いしましょう」
奈美 「ええ」
使者に促され
地上までの道を歩く
遠くに村人たちの姿が見える
徳守、仲間と一緒に去る
京子 「さようなら」
奈美 「さようなら」
エピロ―グ「パンガプスムニダ」
京子の部屋
京子 「夢じゃなかったんだ。竜宮城に行ったんだね、私たち」
奈美 「―うん」
京子、歌う
♪こころざしを 果たして~
いつの日にか 帰らん~
山は青きふるさと~
水は清き ふるさと~♪
長い余韻
京子 「ねえ、また竜宮城にいけるかしら」
奈美 「そうねぇ、青い玉にでもお願いしてみようか
しら」
京子 「そうだ、青い玉を探してたんだったわ」
探す
奈美 「京子、もう探すのよそうよ」
京子 「何で?あんた、就職できるようにお願いする
んでしょ?」
奈美 「やめた。なんかそんなこと、どうでもよくなっちゃった」
京子 「ふ~ん」
奈美 「ねえ、私たちさ、何で竜宮城に行ったんだろ
う」
京子 「どういうこと?」
奈美 「海外旅行に行く人なんて、いくらでもいるじ
ゃない。なんで私たちが選ばれたわけ?」
京子 「そうねぇ、考えてみれば不思議ね」
奈美 「私たちが竜宮城に行ったことは間違えないの
にさ、竜宮城で撮った写真は1枚も写ってない
でしょ。青い玉も出てこない。でも何か、こう
充実した気持ちがず~っと残っているのよね」
京子 「うん。いろいろあったけど、本当に楽しかっ
たもん」
奈美 「青い玉をいくら探したって、見つからないよ
うな気がするの。それよりも私はやりたいこと
が、いっぱいできたわ」
京子 「そうね、私たちがやらなくちゃいけないこと
は、青い玉を見つけることじゃないかもね。
でもね、もし、もしもよ。青い玉があったら
何をお願いする?」
奈美 「そうねぇ―」
音楽
奈美 「―パンガプスムニダ」
京子 「パンガプスムニダ?」
奈美 「竜宮の人たちに伝えたいわ。あなたたちに会
えて本当によかったですって!」
京子 「―うん」
竜宮の人々が浮かぶ
竜王―
王子―
使者―
ばば―
徳守―
竜宮の踊り子たち
村人―
倭国の軍人
加藤
―
―
「にじんだ町」
作詞 杉本 洋
作曲 山口綾子
合唱
♪行ってみたいんだ あの時へ
あなたが生まれた あの時へ
行ってみたいんだ あの場所へ
あなたが笑った あの場所へ
青々とした 海の底
ず~と拡がる にじ色の町
♪思い出すんだ あの人を
私の知らない あの人を
思い出すんだ あの人を
私とすごした あの人を
傷つきながら 少しずつ
いくさをすてた すてきな町
いくさをすてた すてきな町♪
(終わり)