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 シャッ!と音がして、入り口が開き、ボトリと葉巻入りの箱が落ちてきた。上下開閉式のそれは、ものの数秒で閉まった。

 ヱインの要求した葉巻が届けられたのである。

 箱を拾ったヱインはしかめ面をした。

 「ちっ。俺がいつも吸っている銘柄じゃねえな」

 ヱインは、大声でストロハイムに文句を言おうとしたが、ばかばかしく思えてやめた。

 葉巻に火を点けたヱインは、腕を組み、煙が立ち上るのもそのままに、入り口を見つめる。

 入り口の向こうは、角度のついたダストシュートのようになっており、上から滑らせて物を落としている。ヱインの人工身体は“ネクタル”と呼ばれる液体燃料が、そのエネルギーの源であるが、その“ネクタル”も、1時間前に、この入り口から落とされていた。                

角度にして70度ほどであろうか?気を失っていたヱインも、上から滑らせてここに落とされたに違いない。

 (通路の角度もそうだが…開閉の瞬間は短くて厄介だな…)

 ヱインが入り口の向こう側を、一瞬のうちに垣間見たところ、滑り台のようになっているその通路は、出口まで30メートルほどはありそうであった。

 入り口の開閉時間は、ものの0.3秒ほど。その高さは、かがんでようやく入れる程度だが、仮に潜り抜けたとして、角度のついた通路が阻み、下手をしたら挟まれてしまう。その扉の下部も、どうやら刃物のように鋭くなっている。だから、ギロチンのように身体を切断される恐れもあった。仮に脱出を試みた捕虜が、不慮の事故を起こしたらどうするつもりなのか?

 (要は、人間用ではなく、修復可能なサイボーグかアンドロイド用の独房って感じだな。もしくは、処刑を待つ死刑囚とか…)

 ヱインは両方当てはまる。彼にとってはまさに、うってつけの独房であった。

 ヱインは思案を続けている。

 この白色に統一された、殺風景かつ堅牢な独房から、いかに脱出するのか?

 天井の光源を通し、監視もされている状況で、迂闊な動きもできない。

 ヱインは身体を、セラミックの刃では、切断不可能なまでに硬度にすることも可能なのだが、稼働時間は限られている。だから、仮に挟まれてしまえば、しばらくは持ったとしても、その身体が通状態に戻れば、包丁で輪切りにされる、肉や魚と同じ運命が待っているだけであった。

 それでも、一か八か?賭けてみることもできるが、仮に抜けることが出来ても、次に待ち受けるのは70度の角度を持つ坂道だった。

 ヱインの能力を持ってすれば、登れない角度ではないのだが…。上から強力な実弾兵器による攻撃を受ければ、いかにヱインといえど防ぎようもない。

 「…」

 ヱインはやがて仰向けになった。

 仰向けになりながらも、葉巻を口から離すことはしない。その先端からゆっくりと煙が昇った。

 ふとヱインは、その煙の行く末に、かすかだが、天井の隅に丸く描かれたような線があるのを見て取った。

 (あれは…?)

 よく見ると、それは一カ所ではなく、四隅にある。

 (そうか、獄卒どもが緊急用にここへ降りるための昇降口…)

 ヱインはまた、思案した。

 しばらくすると、彼は上半身を起こし、天井に向かって怒鳴った。

 「聞いているか?この葉巻は俺の好みじゃねえ。バンハイム産のやつがほしい。あと、灰皿を用意しろ。セラミックの床が灰皿だって言うなら、笑えない冗談だぜ」

 そしてヱインは、再び仰向けになった。

 その頭は、入り口の方に向けている。

 ヱインは、聴覚の“機能”を、最大限に引き上げた。彼の聴覚器官は、100メートル先の針の落ちる音まで聞き取ることが可能なのだ。

 やがて…。

 入り口の向こう側、通路の上で「シュッ」と開閉する音が聞こえた。次に「スー」と、小さな、おそらく葉巻入りの箱が滑り落ちてくる音が近づく。

 そして!

 ヱインは間髪入れず、仰向けのまま両足で、セラミックの床を蹴った!

 次の瞬間、入り口が開き、ヱインの身体はそこに突入した。

 しかし!

 「ガチン!」

 金属音が響き、火花が散った。

 ヱインの身体が、セラミックのギロチンに胴体を挟まれる格好になったのである。

 ググっと、セラミックの刃が、硬化したヱインの腹部を締め上げる。

 (…持ってくれよ)

 ヱインの青い瞳が、爛々と輝きを増した。

 そしてヱインは、悲鳴をあげた。

 「おーい!助けてくれ!腹が千切れる!…ああ…もうだめ…だ」

 そして、セラミックの扉は上に開いた。

 ヱインの腹には、深い溝が出来ている。

 やがて、「シュー」と音がして、部屋の四隅にある円が同時に下に降りてきた。

 セラミックの円の中心に鉄の柱が伸び、それに掴まるようにアンドロイドの兵士が、それぞれ2人ずつ、計8人がこの白い空間に降り立ったのである。

 アンドロイドたちは、シンプルな鉛色をした機体の兵士だった。

 アスガルドで主戦力となっている、戦闘用アンドロイドで“ドヴェルグ”と呼ばれる機体である。

 彼らは銃を構えながらヱインに近づき、彼を部屋の中央まで引きずりだした。

 「おい!様子はどうだ?」

 部屋の天井から、音声が響いた。この部屋を監視する管理センターからの声である。

 ヱインの腹は、深く大きな亀裂が走っている。そして彼の瞳孔は開き、青い輝きは失われ、色のない白眼を剥き出しにしていた。

 “ドヴェルグ”たちは、無言でヱインの腹や額に触れる。

 「まったく!馬鹿なことを!」

 「“ドヴェルグ”たちから検知される、エネルギー反応は低めだ。ショックで電気系統になんらかの不具合が起きているかもしれんな」

「総統にすぐにお知らせをしないと…」

管理センターからの音声が、にわかに慌ただしくなった。

 “ドヴェルグ”たちは、銃を構えたままである。

 「もういい。すぐにそいつを引き上げろ」

 管理センターから“ドヴェルグ”たちに指示が降りた。

 彼らは銃を下ろし、ヱインの身体を抱き起こした。

 そしてヱインの両脇に、2人の“ドヴェルグ”が、その両腕を肩に回した…まさにその時!

 「…?あっ!エネルギー反応が!」

 次の瞬間、ヱインの瞳がアクアマリンの輝きに燃えた!そして、深く窪んだ腹部が瞬時に戻り、筋肉が躍動する。

 ヱインの両腕は、凄まじい膂力で両脇の“ドヴェルグ”たちの首を締め上げる。

 ヱインの正面に立つ“ドヴェルグ”が素早く銃を構えた。

 が、ヱインはそれを蹴り上げ、さらに二段蹴りの要領で、“ドヴェルグ”の顎を蹴り飛ばした。銃が宙に舞い、“ドヴェルグ”の身体は、セラミックの壁に叩きつけられる。

 そして床に足をつけるや否や、両脇に抱えた“ドヴェルグ”ごと、前転した。

 その勢いで、両脇の“ドヴェルグ”たちの首が鈍い音を立てて折れた。

 ヱインは間髪入れず、後方回転をして、その勢いで、後ろの“ドヴェルグ”に肘打ちをみまった。顔面に肘を喰らった“ドヴェルグ”は、そのまま壁に叩きつけられ、機能を停止した。

 ヱインはさらに腕を巨大な刃に変え、それを大きく一旋させた。

 次の瞬間!

 残った“ドヴェルグ”たちの首が、潤滑油と導線を撒き散らし、宙に舞う!

 鉄塊と化したそれは、床に叩きつけられ、セラミックの上をバウンドする。

 そしてヱインは、素早く鉄柱を掴み、円の上に乗った。さらに昇降用のボタンを見つけた彼は、そのまま起動させて上に昇っていく。

 後には、破壊された鉄塊と床に飛び散った潤滑油、そして鋼鉄の身体が屍のように横たわるのみ。天井からは、蜂の巣をつついたような喧噪が響き渡る。

 「緊急事態!緊急事態!」

 「“ドヴェルグ”全機起動!奴を捕まえろ!」

  セラミックの空間をついに抜け出たヱインは、立ちはだかる“ドヴェルグ”たちを蹴散らし、施設の通路を出口に向かってひた走った。

  そして叫んだ。

 「ストロハイム!いずれまた、挨拶にいくぜ!その時はこの礼を、たっぷりさせてもらうからな!」

 

ユウキは今、無数の岩山が連なる荒涼とした大地を歩いている。

見上げれば、銀河の輝きが天に満ち、今にも星々が降り注ぎそうでもあった。

ユウキの2歩先には、ユウキを先導するようにナターシャが歩いていた。

その栗色の髪は、暗闇の中で、風もないのにたなびき、そして光輝いて見えた。

ユウキがメディナス大聖堂で、ナターシャの精神世界とコンタクトを取ってから、数分

が経過していた。

「ここは、宇宙船ユミルの眠る、火星の衛星ダイモスです。アローラもここにいるわ。彼女にあなたを会わせます。わたしについてきて」

ナターシャはそう告げて、ダイモスの荒野にユウキを誘いながら、ただひたすら歩いた。

アローラに会える…。ユウキの心はざわめいた。

 しかし、ナターシャの歩みは続き、一向にアローラの元まで辿り着く気配はなかった。

「ナターシャ」

ユウキは、ついにナターシャを呼び止めた。

「いつまで歩くんだい?ここにアローラが、本当にいるの?いるのなら、こんなことを

していないで、早く彼女に会わせてくれ」

 ナターシャは振り向き、ユウキに微笑んだ。

 「ユウキ。わたしも早くあなたに、アローラを引き合わせたいのだけど、そうもいかないわ。アローラは今、わたしとのコンタクトを拒否しているの」

 「アローラが?拒否?」

 ユウキは首をかしげた。

 「そう。彼女が心を開かない限り、すぐには彼女の元に辿り着けないわ。彼女がどこにいるのか?わたしには分かってはいるのだけど。本当のことを言えば、今アローラは、あなたにも会いたくないのよ」

 ユウキは言葉がなかった。

 「ユウキ。本当のことを話すわ。わたしはアローラと事前にコンタクトをとっているの。その時に、わたしは彼女にこう言ったわ。“あなたに別れを言いなさい”と」

 ユウキは息を飲んだ。

 「なぜ?そんなことを?」

 「ユウキ。わたしはあなたが、星船でこのダイモスまで上がり、アローラを救出することに協力はすると確かに言いました。でも、あなたが命懸けで、ブレードの首を切り落とし、アルフハイムの危機を救った時、わたし自身の考えが変わりました。1つは、アルフハイムを救った恩義あるあなたを、エリスの眷属が跋扈するこのダイモスに、危険を冒させてまで行かせることは無責任と考えたからです。いま1つは…」

 ナターシャは目を伏せた。

 「あなたが、勇気ある行動でアルフハイムを救った行為、それ自体にあなたの危うさを覚えるがゆえです」

 ユウキは、言葉がなかった。

 「ユウキ、あなたは自覚がないのかも知れないけど、あなたは本質的に、危険を冒してまで英雄的な行動を取る人間ではない。とても素直で優しく、時に理不尽なことに怒りを覚えることはあっても。でも、あなたはアローラと出会うことによって、激変してしまった。あなたの危険な行動原理、それはすなわち、アローラを想うあなたの気持ちが、それを生み出しているのです」

 ユウキは首をかしげた。

 「そんな、俺は…確かにアローラを救いたい気持ちは強いよ。でも、ブレードの首を持って、アルフハイムの街中を走った行為とは関係ない。今にして思えば、随分無茶をしたとは思うけど」

 ナターシャは頭を振った。

 「ユウキ。それは違うのよ。アローラとの出会い、それがあなたを変えたの。あなたはこれ以上、アローラに関われば、きっと何度も、命の危険に晒されることになるわ。“火星の夜明け”を撤退させたあなたの行動は、とても勇敢ではあったけど、同時に死と隣り合わせの危険な行為でもあった。わたしは、あなたが同じ事を繰り返すのを、看過はできない。アルフハイムを守ってくれたあなたを、これ以上危険な目に遭わせるわけにはいかない。それは、アローラも同じ気持ちなのよ」

 ユウキは納得できなかった。

 「ではなぜ?アローラは、俺や君とのコンタクトを拒否しているんだ?」

 「それはあの子が、オージンとしてはありえない、複雑な心境に陥っているからなの。彼女はもはや、神と呼ぶべき存在ではなくなっている。あの子の持つ感情は、人間そのものだわ」

 ナターシャはそう言って、遙かな高見にそびえる、一際大きな岩山を指さした。

 「ユウキ。あの大きな岩山には、宇宙船ユミルがある。その地下に彼女はいるわ」

 そして目を閉じ、しばらく沈黙した。

 やがて、目を見開いた彼女は、ユウキを見つめた。

 「ユウキ。アローラとコンタクトが取れたわ。あなたの意識が、わたしに誘われてここに来ていると告げたら、彼女はあなたに会いたいと」

 そしてあっという間に、景色が変化した。

 そこはまさに、火口のような大きな縦穴が足下に広がる、岩山の山頂であった。

 眼下の縦穴は、どこまでも深く暗闇を湛える、暗黒空間のようにも見えた。

 「ユウキ。ここからはあなたとアローラの問題よ。ここを降りていけば、あの子に会えるわ。2人でよく話をして。今後、あなたがどういう道に進むのか?それは、あなたたちで決めなさい」

 「ナターシャ?」

 ユウキは、ナターシャを見つめた。

「わたしは、あなたがアローラを想い、彼女を救うために行動していくことは、あなたを不幸にすると考えている。でもだからといって、あなたの意志を束縛することなどできないわ。にも関わらず、わたしは、あなたを監禁したり、あの子の気持ちも顧みず、あなたと別れることを強要してしまった。わたしは、間違った選択をしてしまったのかも知れないわ。その点では、わたしたちオージンも、人と何ら変わることのない、完璧とはほど遠い存在なのよ」

 ナターシャは笑った。

 それはどこか、寂しげな笑みだった。

 「ナターシャ…」

 ユウキは、決意に満ちた瞳を、ナターシャに向けた。

 「ナターシャ。誓うよ。俺は絶対に、不幸にはならない。命の危険は避けられないかも知れないけど、必ず、生きる。俺の両親は、俺が幼い頃に、俺の目の前でテロに逢い、俺を庇って命を落としたんだ。両親が繋いでくれた命、絶対に粗末にはしないよ。もうブレードの首で、命の危険を冒したようなマネは絶対にしない。君や、アローラのためにも、絶対に!」

 「ユウキ…」

 ナターシャは微笑んだ。

 「行きなさい。ナターシャが待っている。ユウキ、これだけは覚えておいて。わたしたちは、あなたとアローラの行く末がどうなろうと、必ず、あなたの味方であり続けるから」

 やがてユウキの体は、ふわりと浮かんだ。

 「ナターシャ、ありがとう」

  そしてユウキは、暗黒の広がる縦穴に静かに降りていった。

 

「なんだと?それは確かか?」

 ジェシカの声が、大使館のメインルームに響いた。

中央のソファーでマルコは、タバコを吹かしながら、冷ややかな視線を彼女に送った。

「…そうか。引き続き頼む」

そしてソファーに戻り駈けた時、彼女はまた歩を止めた。

「…やはりな。もう少し、探ってくれ」

彼女の電脳通信での忙しいやりとりは、端から見れば奇異に映る。しかし、マルコにとっては、飽きるほど見慣れた光景であった。

やがてソファーに腰を落ち着けたジェシカに、マルコは呆れた表情を隠さなかった。

「隊長さん。電脳通信の最中、声を上げるのは止めた方がいいですよ。あと、あなたはオーバーリアクションが過ぎる。癖かも知れないが、機密情報のやりとりが、それでは意味をなさないでしょう」

 マルコの皮肉に、ジェシカはどこ吹く風である。

 「どうせ、ここにはお前しかいない。情報の共有出来る奴のために、通信が入ったことを分かりやすくリアクションしたほうが話は早いだろ」

 「…それで。どんな情報が入ったんです?」

 マルコは、興味なさげな表情でジェシカをみやったが、彼女の次の言葉で思わず、目を丸くした。

 「アスガルドのヴァルハラ大使館からの情報さ。アスガルド政府はひた隠しにしているようだが、ヱインがどうやら脱走したらしい」

 「なんですって?彼が拘束されてから、一週間もたっていないのに?」

 ジェシカは腕を組み、不敵な笑みを浮かべた

 「あの男が、おとなしく虜囚に甘んじるものか。どこへ逃げたかは知らんが、そのうちにアルフハイムに戻ってくるかもしれん。その時がチャンスだ」

 マルコは首をかしげた。

 「彼は、星船の部品を求めて、アスガルドに赴いたわけですよね?なら、目的を達成しないうちは、こちらに帰ってくることは考えにくくはないですか?」

 マルコの言葉に、ジェシカは思案した。

 「一理あるな。しばらくは、アスガルドの悪名高い“暗黒街”に潜伏して、目的達成のために機会を窺うか?あるいは、スラム街に潜伏か?…こうしてはおれんな。アスガルド政府に、“スレイプニル事件”の重要参考人でもあるヱインの捕縛を、ヴァストとの共同作戦として政府に要請してもらおう。もちろん、我々が直接乗り込む形でな」

 マルコは首をすくめた。

 「また忙しくなりますね。やれやれだ。隊長さん、もう1つ、情報があるんじゃないですか?」

 「ほう、さすがだな。なぜわかった?」

  ジェシカは意外そうな顔で、マルコを見つめた。

 「隊長さんの様子を見ていれば、いやでもわかりますよ」

 マルコは呆れ気味に、ジェシカを見やり、テーブルの灰皿にタバコを押しつけた。

 「お前にわかるくらいだから、確かにこの癖は、直さなければならないな。ヱインの相棒、ライアのことさ。薄々、感づいてはいたが、“火星の夜明け”の首魁ブレードと交戦し、奴を討ち取ったのは、どうやら彼女らしい」

 「…ほう」

マルコは、俄然、興味をそそられたかのように、ジェシカを食い入るように見つめた。

 「しかし、彼女も無事では済まなかったようでな。身体のほとんどを破壊され、今はメディナスの地下で、修復治療を受けているらしい。場所の特定には至っていないが、引き続き、部下たちに調査させているところだ」

 「そうですか。あの強大なテロ組織“火星の夜明け”の首魁を討ち取るとは。アスガルドの監獄から抜け出したヱインといい、そのライアといい…。あなたがたが追っている2人は、とんでもない化け物ですね。これはいくつ命があっても足りませんよ。勝算はあるのですか?」

 ジェシカは、ニヤリと笑った。

 「ふん。怖じ気づいたか?恐いのなら、上層部に、任務放棄を願い出るがいい」

 「よしてくださいよ。怖じ気づくどころか、むしろ自分はワクワクしているくらいです。ところで隊長さん」

 マルコは急に真顔になった。

 「ちょっと、小耳に挟んだのですが…というより、政府関係者の間で、噂されていることなんです。ユウキ少年によって斬り落とされた、ブレードの首は“火星の夜明け”のテロリストたちが持ち帰りました。しかし、その胴体はどうなっているんです?」

 ジェシカはハッとした表情で、マルコを見やった。

 「奴の胴体は、行方不明らしいのですよ。“火星の夜明け”の首魁ブレード。不死身の身体を持つノスフェラトゥ…。奇怪な噂に絶えない人物ではありますが…そんな事ってありえるのでしょうか?」

 ジェシカは溜息をついた。

 「その噂はわたしの耳にも届いているよ。任務とは無関係だから、事の真偽は、調査していないが…もし、奴が本当に不死身なら…」

 ジェシカは、腕を組み、視線を床に落としてつぶやいた。

 「また、多くの血が流れるな」

 大使館のメインルームに、重い沈黙が流れた。

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