いわさきちひろについて
- 加藤康弘
- 2021年1月6日
- 読了時間: 1分
いわさきちひろの童画は、素朴で繊細でありながら、強かな生命力を感じることがあります。
ベトナム戦争が激しさを増す最中に描かれた「戦火のなかの子どもたち」という絵本は、ちひろのすべてが出たと言われている作品ですが、その93ページに、戦火の彼方に消えた小さな命を象徴するような、以下の言葉があります。
あの子は
風のように
かけていったきり
この言葉と共に描かれた少年の顔は、誰もがちひろにイメージする、パステルカラー鮮やかなかわいい少年少女の絵とは異なり、眼光鋭く非常に厳しい顔つきです。
戦争で無数に失われてゆく幼い命。アメリカが起こしたその所業に対する、ちひろの怒りと深い悲しみ。それがこの言葉と少年の絵に命を宿し、魂を揺さぶるように訴えかけてくるのです。
子どもの幸せと平和を願い、戦争で傷つき死んでいった子どもたちに心を寄せていたいわさきちひろ。彼女の優しさに溢れた水彩画の数々は、わたしの作家としての感性にも大きな影響を与えてくれました。
没後50年近く経た今もなお、彼女の遺作は輝きを増し続けています。

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