小説「ビルマ1946」について
- 加藤康弘
- 2021年6月29日
- 読了時間: 2分
先月、ミャンマー小説の翻訳家で、日本における第一人者である南田みどりさんから「ビルマ1946」という小説をいただきました。今日、この作品を読み終えることができたので、自分なりのレビューをしてみたいと思います。
この小説の作者はテインペーミン。ビルマの独立運動や抗日運動にも加わり、ビルマ共産党の書記長や、国会議員などを歴任したまさに歴史的な人物です。日本でいえば、小林多喜二や宮本百合子にも匹敵する人物といっても差し支えないでしょう。そんな彼が、ビルマ共産党を始めとする左翼勢力のクーデター計画に名を連ねたということで逮捕され、獄中にあった時に書き上げたのがこの「ビルマ1946」です。
まず1つ思うのは、独立前夜にあった1940年代のビルマに様々な党派や組織、労働組合などがあり、祖国の未来を切り開くため模索を続けていたという事実がリアルに、そして赤裸々に描かれていることです。その構成力は苦難の時代に各地を転々としてきたテインペーミン氏だからこそという印象を受けました。「ビルマ1946」の舞台となっているのはビルマ南部のピャーポン県という一地方に過ぎません。しかし、そこで繰り広げられる活動家たちの苦悩や苦難、祖国の独立に向かい活き活きと動く様は、まさに命を宿した等身大のビルマ人の姿。わたしのよく知る「闘う」ミャンマーの人々の息吹がそこにあるわけです。
物語は、所属政党の異なる二人の男女の恋愛を軸とし、異なる思想とやり方をもつが故に、ビルマ独立という1つの大義に、なかなか団結ができない諸組織の混迷ぶりを浮き彫りにしていくのですが、そこには何者にも肩入れすることのないテインペーミンの突き放した現実性があり、複雑な経歴を持つ彼ならではのリアリティを感じました。ただその反面、所属する組織と微妙な思想的相違を持つ二人の男女…ティンウーとターメーに、テインペーミンは希望を託す形で、物語の幕を下ろしていくわけです。そこに権力に抗い、祖国の独立という大義にブレない彼の信念を見るようでした。
この作品に描かれた時代背景や、民衆の要求は「今」とは異なります。ただ、ミャンマーの民主主義を取り戻す戦いを続ける「今」のミャンマーの人々にこそ通じるテーマがそこにあり、また苦難や苦悩を抱えながら「今」を戦う日本人にも、是非読んでほしい作品だと感じました。

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